『刑事モース~オックスフォード事件簿~』Case10「光と影の奇想曲」(表と裏のバラッド)のあらすじと感想 ネタバレ注意!

※ネタバレしています。

『刑事モース~オックスフォード事件簿~』
Case10「光と影の奇想曲」(表と裏のバラッド)"Ride"のあらすじ

少年矯正施設だったブレナム・ベイルで起こった事件。撃たれたサーズデイ警部補は復帰。 一連の事件はディアー警察次長の心の病が引き起こしたものとして片付けられ、事件は50年間封印されることになる。

ディアーにハメられ、スタンディッシュ警察本部長殺害の罪で逮捕されてしまったモースは釈放されたが、警察組織に絶望。 上流階級の大学時代の同級生たちとつるみ、華やかなパーティーを楽しんでいた。

そんな中、モースの借りている湖畔の別荘近くで事件が発生。サーズデイ警部補の説得もあり、復帰したモースは車で何度もひかれて殺された女性ジーニーの事件を追う。

同じく湖畔に住む謎の大富豪ビクスビーのパーティーに呼ばれたモース。 ビクスビーと親しくなったモースだが、ビクスビーは顔をショットガンで撃たれ、殺されてしまう。 ビクスビーはモースの同級生ブルースの妻ケイと知り合いだった。

ひき殺されたジーニーはサルのぬいぐるみに隠された中国のヘロインの運び屋で、ブルースの愛人。 殺されたと思われたビクスビーが姿を現すが、正体はビクスビーの双子コンラッドだった。

大富豪となったビクスビーの本名はチャーリー・グリール。子どもの頃、双子のチャーリーとコンラッドは父親のマジックショーに出ていたが、チャーリーだけを外に出し、周りには1人の子どもだと信じさせていた。 マジックショーに加わったキャシー(ケイ)はチャーリーと恋に落ちる。しかし、同じくキャシーに恋をしていたコンラッドはチャーリーになりすまし、キャシーと寝たのだった。 チャーリーとキャシーは逃げ出すが、つらくなり破局。

その後、モデルとなったキャシー(ケイ)がブルースと結婚したと知ったチャーリー。ハリー・ローズをパトロンに「ビクスビー」と名前を変え、ケイを取り戻そうとしていたのだった。

チャーリーとキャシーが逃げたあと、父親はマジックショーを続けるため、父親ジェーナス・グリールはグレート・ザンビージーに、コンラッドは義理の弟スウォープスになっていた。

コンラッドはブルースをハメるため、ブルースの車でジーニーを殺害。 ビクスビー(チャーリー)になりすますため、ショットガンでビクスビー(チャーリー)を殺害。ビクスビーの遺体がモースに見つけられてしまったため、顔のない遺体がロディだと思われるようにロディを殺していた。

事実を知った父親はコンラッドを射殺する。 ケイはビクスビーの葬儀にも出ず、ブルースとケニアに旅立つ。

お墓で、ビクスビーに思いをはせるモース。 「ザンビージーの言う通り、本当のマジックなんかない。愛以外。あとはウソとごまかしだけ」と言うのだった。

『刑事モース~オックスフォード事件簿~』Case9「ネバーランド」前回のあらすじと感想はこちら≫

Case10「光と影の奇想曲」の感想

今回は F・スコット・フィッツジェラルドの小説『グレート・ギャツビー』を想起させるストーリーでしたね。

さらに、 ヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベール主演の映画『プレステージ』も思い起こさせるエピソードになっているとか…。

『刑事モース~オックスフォード事件簿~』のシーズン3は全4話。イギリスではシーズン4、シーズン5も放送され、シーズン6の製作も決定しています。

ブレナム・ベイル事件はうやむやに

前回、ブレナム・ベイルでサーズデイは撃たれ、モースは殺人容疑で逮捕。 警察の闇が暴かれるかと思ったら、ディアーの心の病で片付けられていたのがモヤっとしますね。さらに身内の不祥事が明らかになるのをおそれて「臭い物に蓋をする」ことにしたようです…。歯切れの悪い幕引き。

しかも、事件は50年間封印。今回のエピソードは1967年が舞台ということで、封印が解けるのは2017年!

モースが警察を辞めたいと思うのも無理ないですね。

「長く闇にいると光を忘れる。警察はもう辞めた」とサーズデイ警部補に伝えるモース。1か月もサーズデイの生死も分からなかったというのがつらい…。 ドジを踏んだと自分を責めていたモース。 自分が捕まったことよりも、サーズデイが撃たれたことを悔やんで、心配していたというのがモースらしいですね。

虐待の悲惨な過去が明らかになったジェイクスでしたが、いつも通りのクールな姿で一安心。

今回の事件関係者

イースターと言っていたので、今回の事件は1967年3月ごろに起こった模様。 複雑で事件は二転三転。 まさか双子のトリックだったとは…。

まずは今回の事件の主な登場人物のまとめ。

  • ジョス・ビックス・ビクスビー(チャーリー) 謎の大富豪。カジノのベルヴェディア・クラブを経営。本名はチャーリー・グリール。
  • コンラッド・グリール(スウォープス) ビクスビー(チャーリー)の双子で影の存在。メガネをかけている。特殊メイクで変装し、 スウォープスのフリやマジックショーのサクラをしていた。
  • ケイ・ベルバロー(キャシー) 元モデルで、ブルースの妻。昔、チャーリーと付き合っていた。
  • ブルース・ベルバロー モースのオックスフォード大学時代の同級生。ケイの嫌みな夫。ジーニーと浮気していた。
  • ジーニー・ハーン ブルースの浮気相手。赤毛のひき殺された被害者。ヘロインの運び屋。
  • ハリー・ローズ 刑務所から出所したばかりのビクスビーのパトロン。ヘロイン取引も行う。
  • ジェーナス・グリール(グレート・ザンビージー)移動遊園地のマジシャン。双子 チャーリーとコンラッドの父親。
  • アンソニー(トニー)・ドン モースのオックスフォード大学時代の同級生。モースが湖畔の別荘を借りている。
  • ロディ ギャンブルで大負けした学生。ヘロインで死亡したアッシュボーンの親友。ビクスビーが死んだことを隠すため殺される。

サーズデイは無事だった

ビクスビーが冒頭で見ていた映像は、車とモーターボートのレーサーとして活躍し、1950年代から60年代にかけて8つの世界記録を樹立したドナルド・キャンベルの事故。ドナルド・キャンベルは1967年にモーターボートで水上最速記録に挑み、事故で亡くなっています。

撃たれたサーズデイは無事でした。ブライト警視正がサーズデイ警部補のデスクを見つめていたときには、死んでしまったのかと不安に…。 復帰したサーズデイ警部補ですが、せき込んでいるのが心配ですね。撃たれた後遺症?

釈放されたモースは湖畔の別荘に。1か月も刑務所にいたようで、びっくり。疑いを晴らすのは結構大変だったようです…。

オックスフォード大学時代の同級生が登場。周りは上流階級ばかりで、モースは浮いていたようです。 ペーガン(異教徒)というあだ名まで…。ブルースが嫌な奴でしたね。

事件に巻き込まれていくモース

赤毛の女性ジーニーがひき殺される事件が発生。警察を辞める気でいたモースも次第に捜査に参加するように。

モースがいないにもかかわらず、事件現場で「みんな、そろったな」と言うブライト警視正。 「モースは!」と言いたくなりますが、実はブライト警視正もモースの復帰を心待ちにしていたようですね。 モースが復帰した時には「過去は変えられんが、未来は良くできる」と声をかけ、うれしそう!

「また悪い女に泣かされてるんだろ」とブルースに言われるモース。Case4 「ファミリービジネス」でも語られたスーザンとの失恋はよほどひどかったようですね。

モースにモーションをかけてくるケイ。またしても、モースはモテモテ…。人妻にもモテるとは隅に置けませんね。 ケイが言っていた「イーチン」は中国の易経の要素を取り入れたタロットカード占いのようなものだそう。

ジーニーがひき殺された現場でゴルフのスコアカードを拾ったモース。やっぱり事件となると放ってはおけないようですね。 付き合っていたモニカとは逮捕劇のせいで、別れてしまった模様…。

ケイと2人きりになるモース。モースのファーストネーム「Endeavour エンデバー」は人に知られたくない名前のようですね…。「バラは名前より香り」だと言うケイ。「ロミオとジュリエット」からの引用のようです。 ケイに似ている人を思い出すというモース。やはり、フラれたスーザンのこと!?

謎の大富豪ビクスビーにパーティに来るように招待されたモース。モースが贋作だと気付いた頭蓋骨が印象的な絵画はオランダの画家ピーテル・クラースの「Vanitas Still Life with the Spinario」と言う作品だそう。

ピーテル・クラース - Wikipedia

ピーテル・クラースは アントウェルペン近郊の ベルヘムで生まれ、1620年にその地の 聖ルカ組合のメンバーとなった。彼に関して両親の名前やどこで訓練を受けたか等は伝わっていない。1621年には ハールレムに移り、そこで息子(後に風景画家となった ニコラース・ベルヘムが生まれている。ピーテル・クラースと 静物画で知られる ...

チップを消して見せるビクスビーや、脈でモースのイニシャルを当てようとしたり、遊園地は嫌いだと言っていたケイ。これはマジックショーに出ていた過去の伏線だったようですね。

ひき殺されたジーニーは射的の商品でサルをもらったことが判明。ブライト警視正が本物のサルだと勘違いしているのが、おかしいですね!

ビクスビーの口癖「カレシ」

モーターボートは危険だと言うモースにビクスビーが引用した「勝利とリスクで築いた財産を1回のコイントスに賭けられるなら」はイギリスの詩人ラドヤード・キップリングの「IF」から。

『「IF」という詩(ジョセフ・ラドヤード・キップリング)』

日本では、「ジャングル・ブック」で有名なジョセフ・ラドヤード・キップリング Joseph Rudyard Kipling。 彼のIFという詩を、ある雑誌で知って、全文が読みたくなって調べてみました。 人生で遭遇するあらゆる場面にどう対処するべきかが書かれた、素敵な詩です。 (訳は僕の勝手な訳なので、英語で読んだほうがいいかもしれません。。。) ...

コンラッドが作ったというスクラップブックにもこの詩が!

モースがビクスビーと別人だと気付いたきっかけとなったのは「彼氏 カレシ」という口癖。「カレシ」と聞いたときは、びっくりしましたが、英語では「old man」と言っているようです。 「old man」は相手に親しみを込めて呼ぶときに使うそうです。

ビクスビーに気に入られ、車のコレクション クリップスプリンガーを披露されるモース。クリップスプリンガーは『グレート・ギャツビー』に登場する人物の名前でもあるそう。

「あげるよ」と言われた車はポルシェ!?  60年代の車はレトロでかっこいいですね。

車の落書きは、旧約聖書「民数記」第32章「主に向かって罪を犯したその罪は身に及ぶ」。 これはコンラッドが書いたものだったのでしょうか…。

ストレンジは巡査部長に

ストレンジはジェイクスと同じ巡査部長に昇格。モースよりも上の階級になったようですね。 『主任警部モース』では、ストレンジは警視正となり、警部であるモースの上司になっています。
  • 警視監(警察本部長)Chief Constable
  • 警視監補(副本部長)Deputy Chief Constable
  • 警視長 Assistant Chief Constable
  • 警視正 Chief Superintendent
    ブライト
  • 警視 Detective Superintendent
  • 警部 Detective Chief Inspector
  • 警部補 Detective Inspector
    サーズデイ
  • 巡査部長 Detective Sergeant
    ジェイクス ストレンジ
  • 刑事巡査 Detective Constable
    モース
  • 巡査 Police Constable
    ストレンジ

犯人は双子のコンラッド

ショットガンで殺されるビクスビー。殺される前に「ケイと1時間過ごせるなら何人でも殺せる」や「こういう夜は何でもできそうな気がする」という言葉でてっきり、自分の死を偽装したのかと…。自分の死を偽装して、ケイを取り戻す作戦か何かかと思ったら、全然違いました…。

顔がつぶれてるのも、偽装と思わせるのに十分。 まさか特殊メイクをした双子がいるとは!

ビクスビーを殺すことで、「影が光を殺し、光として生きようとした」コンラッド…。

マジックのため、もうひとりの息子の人生を抹殺するなんて、残酷ですね。 しかも、決めたのはコイントス…。やりきれない気持ちに。

「ジェーナス・グリール&コンラッド」というマジックショーの名前にだけ存在が…。しかも、響きがいいと言う理由だけというのがさらに悲しいですね。 そのショーに加わったのはケイ(キャシー)。チャーリーと愛し合っていたのに、双子で、違いはメガネだけのコンラッドとは知らずに関係を持ってしまったのでした。ひどい…。愛した人と同じ顔をした男にレイプされるなんて…。

チャーリーの偽名ビクスビーは靴磨きのクリームの名前からとったようですね。

愛人のジーニー殺しをブルースに見せかけ、さらに双子の兄弟チャーリー(ビクスビー)までも殺害。ケイと人生を手に入れるつもりだったコンラッド。

チャーリーの遺体は埋めるつもりだったはずが、モースに遺体を発見され、ロディを殺すことに。 ボウタイの形で遺体はチャーリーだと気付いたモース。

コンラッドが屈折し、殺人を犯したのは、影の存在でしか生きられなかったことが原因だと思うと、やるせないですね。

ブルースをはめるため、ゴルフの予約をした偽名「ウーティス」はオデュッセウスがポリュペ―モスと戦うときに使った偽名だと気付いたモース。

古代ギリシャのホメ―ロスの叙事詩 『オデュッセイア』に登場するギリシャ神話の巨人ポリュペ―モスは島の洞窟に住んでいました。

『オデュッセイア』の主人公オデュッセウスはトロイア戦争後、島の洞窟に立ち寄り、部下と共に閉じ込められ、ポリュペ―モスに食べられそうに。オデュッセウスはワインを飲ませて酔わせ、自分の名前は「ウーティス」と名乗り、酔いつぶれたポリュペ―モスを攻撃。ポリュペ―モスは仲間に誰にやられたか聞かれ、「ウーティス」と言いますが、「ウーティス」はギリシャ語で「誰でもない」という意味。

「ウーティス(誰でもない)」と答えるばかりのポリュペ―モスは仲間にあきれられてしまうというお話。

話を知ると、人を策略にはめるときの偽名にぴったりですね。

「古典好きならすぐわかる」と言うモース。さすが造詣が深いモース!

ポリュペーモス - Wikipedia

ポリュペーモス( 古希: Πολύφημος, Polyphēmos, ラテン語: Polyphemus)は、 ギリシア神話の 巨人または人物である。 長母音を省略して ポリュペモスあるいは ポリュフェモスとも表記する。ポリュペーモスとは「名の知られた」という意味である。 神話では、一つ目の人食い巨人と、 アルゴナウタイ の一員である人間、ふたりのポリュペーモスが登場する。

それにしても、ハリー・ローズは裏社会の人間のようですが、最後まで何をやっている人なのか、いまいちつかめず…。 中国のヘロイン取引と殺人が絡み合って、複雑になっていました。

事件は解決する

犯人だったコンラッドを父親が射殺。手錠を外してしまう父親にもびっくり…。

せめて交互にするとか、チャーリーが逃げた後に、解放してあげればよかったのにと思ってしまいます。「芸術には犠牲がつきもの」だと、わが子を犠牲にするなんて…。自分を犠牲にするならまだしも、実の子をマジックの種として利用するとは、ひどすぎますね。

サーズデイ警部補のサンドウィッチの具を当てるモース。普段の調子が戻ってきたようで一安心。 チーズとピクルスということは月曜日ですね!

ケイはビクスビーの葬儀にも出ず、ブルースとケニアに。 愛のない虚飾の生活に戻っていく、せつない最後でした。

チャーリーは「ジョス・ビックス・ビクスビー」としてお墓に入っていたのが意外。

「人生は選べない。本来の自分から逃げたところで、いずれは捕まる」というサーズデイ警部補。 刑事を辞めようといていたモースでしたが、刑事でいることはモースの運命というか本質なのかもしれませんね。

「ザンビージーの言う通り、本当のマジックなんかない。愛以外。あとはウソとごまかしだけ」と言うモース。 ケイへの愛は本物でしたが、本当の姿ではなかったビクスビー…。

ビクスビー役を演じているのは、歴史ドラマ『女王ヴィクトリア 愛に生きる』でアルバートの兄エルンスト役のデヴィッド・オークスです。

次はどんな難事件を解決するのか楽しみですね。

ちなみに原案者のコリン・デクスターは13分30秒ごろ、ロディが教会で祈るシーンにカメオ出演しています。

Case10「光と影の奇想曲」で流れた曲

  • モーツァルトのレクイエム「ラクリモーサ」
  • Sunday Morning - THE VELVET UNDERGROUND & NICO
  • I Had Too Much to Dream (Last Night) - THE ELECTRIC PRUNES
  • You're Gonna Miss Me - 13TH FLOOR ELEVATORS
  • Puppet On a String - SANDIE SHAW
  • Wooly Bully - UNKNOWN INSTRUMENTAL VERSION
  • A Taste of Honey - HERB ALPERT & THE TIJUANA BRASS
  • The End of the World - JULIE LONDON
  • All Tomorrow's Parties - THE VELVET UNDERGROUND & NICO
  • ヴェルディのオペラ『リゴレット』第3幕"V'ho Ingannato"
 

『刑事モース~オックスフォード事件簿~』の登場人物・キャストについてはこちらへ>>

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