※ネタバレしています。
『刑事モース~オックスフォード事件簿~』
Case3「殺しのフーガ」のあらすじ
操車場の列車の中で、エヴリン・バルフォーが絞殺されているのが見つかる。さらに、翌日には植物学者のグレース・マディソンが毒殺されていた。モースは一連の事件がオペラのストーリーになぞらえて、行われていることに気付く。
モースはグレースの日記に残されたミスター・ニモを調べ、ベン・ニモが壁に生き埋めにされているのを発見する。 精神科医のクローニンは連続殺人事件の犯人像をプロファイリング、警察に協力しにやってくるが、少女が誘拐される事件が発生。モースは犯人に脇腹を切られてしまうが、捜査を続行。 モースは犯人が出したクイズを解いて、少女を救い出すことに成功するが、精神科医のクローニンが殺されてしまう。
一連の事件は昔 母親を殺したメイソン・ガスが復讐のために目撃者や裁判官など事件の関係者をABC譜EGBDFの順に殺していることが判明。モースの写真を犯行現場に残すなど、モースにも執着。
Fはグレースの姪フェイ(Faye)だと思い、助けに向かうが、実は犯人の目的はFのつくフレッド・サーズデイ警部補の方だった。 メイソン・ガスは精神科医のクローニンになりすましていたことが判明。本物のクローニンは監禁され、殺されたのだった。
メイソン・ガスはサーズデイをナイフで殺そうとするが、モースが助けに入り、メイソン・ガスは逮捕される。 「まともな人間なら、おかしくなる。守るものを見つけろ」とモースはサーズデイに助言されるのだった。
『刑事モース~オックスフォード事件簿~』Case2「泥棒かささぎ」前回のあらすじと感想はこちら≫Case3「殺しのフーガ」の感想
モースのオペラの知識が大いに役に立った事件でした。ブライト警視正には「オペラ君」と呼ばれる始末。 タイトルの「フーガ」は遁走曲という意味だそう。
【犯人の復讐リスト】- エヴリン・バルフォー(Evelyn Balfour)
浮気をしていた女性 - グレース・マディソン(Grace Madison)
植物学者 - ベン・ニモ(Ben Nimmo)
食肉処理場の人 - ダニエル・クローニン(Daniel Cronyn)
精神科医 - フレッド・サーズデイ(Fred Thursday)
警部補
全員、オペラのストーリーになぞらえて殺されていました。 日本を舞台にしたオペラ「ミカド」でココは死刑執行司令官。日本が舞台のオペラですが、日本人から見たらツッコミどころ満載の作品になっているそうですよ。 被害者ニモのポケットに入っていたココの歌はリストに載ったら、逃げられないという意味でした。
壁に生きたまま埋め込まれたというのが残酷過ぎますね。精神科医になりすましていたメイソン・ガルは気持ち悪そうにしていましたが、内心は喜んでいたのかも…。 ニモが殺された地下室にはモースの写真が! 新聞に掲載されたモース。犯人もモースならこのゲームについて来られると考えたようです。
被害者はABC譜のEGBDF(ミソレシファ)という順番で殺されていることに気付いたモース。覚え方は「Every Good Boy Deserves Favour」。 ABC譜はイギリスで生まれたようです。
- エヴリン・バルフォー(Evelyn Balfour)
ヴェルディのオペラ「オテロ」で、オテロは妻デズデモーナの不貞を疑い、絞殺。デズデモーナのハンカチが不貞の証拠として登場しますが、最後にデズデモーナは不貞をしていなかったことが発覚します。
オテロ (ヴェルディ) - Wikipedia
副官の座を失ったカッシオに、ヤーゴは「デズデモーナに取成しを頼め」と提案する。オテロが登場。ヤーゴは、庭園でカッシオとデズデモーナが歓談している様子を、さも二人が不貞を働いているかのようにオテロに信じ込ませる。室内に入ってきたデズデモーナはカッシオの赦免を夫に願うが、心中疑念をもつオテロは耳を貸さない。デズデモーナが落としたハンカチは女中エミーリアが拾ったものの、その夫ヤーゴが脅迫の末手中に...
エヴリンはオペラ「オテロ」に登場する妻デズデモーナのように絞殺。口にはハンカチが。列車のドアの後ろにはイタリア語で「un bacio ancora」(もう一度キスを)という「オテロ」の最後のセリフが残されていました。
イタリア語が分かったサーズデイ警部補。イタリアに転戦したと話すサーズデイ警部補は遠い目…。イタリアで何かあったのでしょうか?
- グレース・マディソン(Grace Madison)
ドリーブのオペラ「ラクメ」で、インドの娘ラクメはチョウセンアサガオの葉を食べて自殺しています。 グレースは同じくシロバナヨウシュチョウセンアサガオ(白花洋種朝鮮朝顔)の毒で死亡。
ラクメ - Wikipedia
『ラクメ』は、 1883年に パリの オペラ・コミック劇場で初演された。 19世紀後半の多くのフランス・オペラ同様、『ラクメ』は19世紀後半に流行していた東洋的な雰囲気を描写した作品となっている( ビゼーの『真珠採り』や マスネの『ラオールの王』などが同様の例)。この作品の録音は複数存在し、 マド・ロバン、 ジョーン・サザーランド、 マディ・メスプレ、 ナタリー・デセイなどの著名な ソプラノ 歌手による演技が含まれる。ドリーブ特有の複雑なメロディが特徴であるが、この作品が上演されることは少ない。
植物のラベルには「Ici loin du monde reel」という「ラクメ」の最後のセリフが残されていました。
シロバナヨウシュチョウセンアサガオの別名はソーン・アップル・デビルズ・スネア。すごい名前ですね。ゲームに出てきそう! 猛毒でかなり危険なようです。モースが温室で見つけたトゲトゲのものはシロバナヨウシュチョウセンアサガオの実だったようですね。
- ベン・ニモ(Ben Nimmo)
ヴェルディのオペラ「アイーダ」で、エジプトの将軍ラダメスは軍事機密を敵に渡したとして生き埋めの刑に。ラダメスを愛するアイーダは生き埋めになったラダメスと共に平穏に死んでいきます。
アイーダ あらすじ −わかる!オペラ情報館
【1】 エジプトを舞台にした有名オペラ ...
ニモが生き埋めにされた地下では、レコードでラダメスのアリアが流れました。 オペラのように平穏に死ぬことはできず、苦しんだニモ…。
- ダニエル・クローニン(Daniel Cronyn)
リムスキー・コルサコフのオペラ「スネグーラチカ (雪娘)」で、雪で作られた少女スネグーラチカは日の出と共に溶けて死亡。Dは誘拐された少女デビー・スノー(Debbie Snow)かと思われましたが、実は本当の狙いは精神科医のクローニン。金属も溶かす王水で、顔を溶かされていました…。
- フレッド・サーズデイ(Fred Thursday)
プッチーニのオペラ「トスカ」第2幕で、ローマの警視総監スカルピアは自分に体を捧げるならトスカの恋人を助けてやってもいいとトスカに迫り、トスカはナイフでスカルピアを刺殺。スポレッタは警視総監スカルピアの副官。モースはスポレッタの役ということで、配役はぴったり。
モースが勘違いした「トスカ」第3幕では、恋人がすでに処刑されていることを知り、スカルピアの殺害で追われたトスカは城壁から身を投げて命を絶っています。
トスカ あらすじ −わかる!オペラ情報館
【1】 アリアの宝庫 このオペラには、第1幕にカヴァラドッシのアリア「妙なる調和」、第2幕にトスカのアリア「歌に生き、愛に生き」、第3幕にカヴァラドッシのアリア「星は光りぬ」という3つのアリアがあります。そのどれもが名曲で、とても人気があります。オペラは長くて退屈だと思う人でも、この『トスカ』なら、飽きずに最後まで観ることができるのではないでしょうか。 【2】 悪役スカルピアの最期
電話でモースに「トスカ」第3幕の曲を聞かせて、ミスリード。 犯行が行われるのは、オックスフォード学生合唱協会(The Oxford Scholars Choral Association)。頭文字を取ると「TOSCA(トスカ)」に!
クイズ好きな犯人
胡散臭い精神科医のクローニンは本人ではなく、犯人のメイソンがなりすましていたのにはびっくり。 母親を殺していたり、ゲームを楽しむように劇場型の犯罪を引きおこしたりと残虐…。まさにサイコパス。
しかも、警察にまで来て、自分で自分が起こした犯罪について語っていたというのも、おそろしいですね。 復讐だと言っていましたが、サーズデイ警部補など直接 事件に関係ない人まで殺そうとするメイソン。 結局、人を殺すゲームがしたかっただけのよう。
メイソンにとっては少女もゲームの道具。少女デビーの誘拐では残された靴にクイズが。 新聞社にも「?: 3 - OCP: 0」書かれた「雪娘」の楽譜が届けられました。「?: 3 - OCP: 0」は「?」は犯人を指し、数字は3人を殺したと言う意味で、OCPはオックスフォード市警察(Oxford City Police)で、3対0点という意味だったようですね。
靴に残されていたクイズはアナグラム。"No alibi err badly
Near by libra idol.”
どちらも並べ替えるとBodleian Library(ボドリアン図書館)!
ボドリアン図書館は26もの図書館を合わせた全体のことを指すそうで、そのうちの1つハンフリー公爵図書館は映画『ハリー・ポッター』でホグワーツ図書館として撮影に使われたそうです。
ボドリアン図書館 - Wikipedia
ヨーロッパでも有数の伝統を誇る図書館で、イギリスでは 大英図書館に次ぐ規模の図書館である。オックスフォード大学の学者の間では「ボドリー (Bodley)」もしくは単に「ボド (the Bod)」として知られている。イギリスの出版物に関する「」の下に定められたイギリスに6つある 法定納本図書館のひとつであり、アイルランドの法律のもと アイルランド ...
ナイフで脇腹を切られてしまったモース。その傷を縫ってくれたのはなんと警察医のマックスでした。 遺体の解剖をする警察医に治療してもらうなんて変な感じ。
次のクイズは 「ある警官は能無し。全警官は悪人だ」。結論は「ゆえにある悪人は能無しである」
論理的推論の形式である三段論法(モーダス・ボカルド・シロギズム)だと精神科医で実は犯人だった男にヒントをもらったモース。自分の犯行を自画自賛していましたね。
クイズの答えを求めて、車を走らせるモースは殉教者記念碑を見て、クイズの答えをひらめきました。殉教者がいたのはボカルドの牢獄。ボカルドの牢獄の扉が飾られている教会に少女が。 オックスフォードに詳しくないと解けない難しいクイズでしたね。
無事に少女を助け出すことに成功しましたが、それは目くらまし。 本当の狙いはモルヒネ漬けにしていた本物の精神科医クローニンを殺すこと。 金属も溶かす王水で遺体の顔を溶かして、死を偽装していました。
自分の元患者キース・ミラー(Keith Miller)が犯人だと言っていたメイソン。これもアナグラムで、並べ替えると”I'm the killer”(私は殺人犯)となるのでした。あちこちになぞなぞを仕込んでいますね。
犯人に執着されるモース
モースは合唱団に参加しており、モースは「歌う刑事」メイソンは「オペラ座の怪人」と称されることに。 すっかりメイソンに執着されてしまったモース。メイソンはモースのことを自分の伝記作家だとサーズデイ警部補に説明。 歴史に残るとか、伝説になるとか、完全にどうかしているメイソン!
メイソンは自分と知性のあるモースを同一視。逮捕されてもなお、モースに執着するメイソンが狂気!
犯人を逮捕したモースはブライト警視正に認められ、サーズデイ警部補の補佐に戻ることが正式に決定。よかったですね。 ブライト警視正とサーズデイ警部補が同時に紅茶を飲むシーンはなんだかほっこり。
傷を負ったモースでしたが、サーズデイ警部補の家で家族団欒を味わうのでした。 あったかい雰囲気で、事件にのめり込み過ぎるモースの癒しにもなったようです。
サーズデイ警部補が楽しみにしているサンドウィッチは奥さんの手作り。 曜日毎にサンドウィッチの中の具は決まっていて、それを当てるモース。 楽しみを奪うんじゃないよとグチるサーズデイ警部補。事件は残酷でしたが、ほのぼのするやりとりでしたね。
ジェイクスは嫌みが炸裂。特にサーズデイ警部補の補佐がモースに変わってからは、嫌みも倍増。事務仕事のモースに大人の仕事はこっちに任せろと言ったり、変人だとからかったり。 モースが正式にサーズデイ警部補の補佐になったことでジェイクスの嫌みも増えそう。
犯人を逮捕したモースでしたが、犯人に「永遠に孤独だ。自分からは逃げられないぞ」と言われてしまいました。 サーズデイはまともな人間ならおかしくなると忠告。 平気で残忍な殺しを楽しむ犯人や残虐な出来事ばかり見る刑事は精神的にも辛そうですね。
音楽を愛しているモースには、レコードを大音量で聴いて、どんな闇もこれだけは自分から奪えないと刻みつけろとサーズデイはアドバイス。
事件にのめりこみ過ぎる傾向のあるモース。これからモースはこれ以上の闇を見ることになるのでしょうか…。
金色の装飾が印象的な屋上のシーンはオックスフォードのトリニティ・カレッジで撮影されたそう。 今回の犯人はまた登場しそうで、おそろしいですね。
原作者のコリン・デクスターはフィリップのリサイタルの観客としてカメオ出演しています。
Case3「殺しのフーガ」で流れた曲
- ピアノソナタ第14番「月光」 - ベートーベン
- Act IV: Mia madre aveva una povera ancella…Piangea cantado… -「オテロ」より
- Flower Duet -「ラクメ」より
- Vissi d'arte, Vissi d'amore -「トスカ」より
- O terra, addio -「アイーダ」より